シジミ漁業

 

水産資源としての特性

水産資源としての特性
 
(1)シジミは生物資源である
 水産資源としてみたヤマトシジミの第1の特性は、なにより生物資源であることです。生物資源は他の資源のように使った分だけ減少するのではなく、子供を産みその子供が成長することでまた殖えてくる再生産が可能な自立的更新資源です。

 生物資源は、子供を産んで数を増やし、またそれぞれの個体が成長して大きくなることによって増大します。他方いろいろな自然的要因による死亡によって減少します。増加する量と減少する量がつりあっているときは資源量が増減せずバランスの取れた状態ですが、減少する量、すなわち自然に死亡する量や人間が漁獲する量が増加量より大きくなると生物資源は減少してしまいます。したがって、自然に増える量を予測し、これに合わせて漁獲量を調整すれば、資源を減らさずに漁業を続けることができます。

 シジミ漁業は海に比べると数段小さく閉鎖的な水域である湖沼、河口域で行われており、その資源の大きさも海の資源ほど大きくありません。その上シジミは魚類と異なり移動性に乏しいので、採捕することが容易であり、そのため乱獲に陥りやすい水産資源です。したがって、海以上に資源管理型の漁業を実現する必要があります。
 
(2)環境に支配される
 第2に、水産資源の特徴として忘れてならないのは、すべての生物は特定の環境の中で生きているということです。生物の生活は多くの環境要因に適応することで成り立っています。したがって環境が適していれば著しく大繁殖し、適さなければ絶滅することもあります。また一旦減少した生物でも良好な環境が維持されれば、すぐに回復します。このように水産資源を考える場合は、単に生物の集団だけを考えるのではなく、その生物が生活している環境を含めた生態系を考えることが非常に重要です。

 シジミ資源は、地球上の水域では最も小さく気象や人為による環境変化の大きい汽水域に生息しています。シジミ漁業においては、漁業管理は過去に比べ格段に強化され、漁獲量も制限されています。にもかかわらず、シジミの漁獲量は大幅に減少しています。このことはシジミ資源の増減にとって環境がいかに大きな影響を与えているということを如実に物語っています。

 シジミ資源にとっては漁業環境の保全、改善が今日最大の課題です。
 
(3)シジミは無主物である(乱獲)
 第3の特性は水産資源は無主物(先取性)である、つまり、誰のものでもないということです。ですから早い者勝ちで、獲り揚げた瞬間からその人のものになります。何の制限もなければ利益を生み出す限り無数の人たちが漁獲に加わり、無制限に採るだけ採ることになります。こうなると乱獲になってしまいます。そこで、限りある資源を永続的に利用できるようにするために、シジミを採る権利=漁業権が漁業協同組合に与えられています。

 シジミの漁業権が与えられている漁協には、素晴らしいシジミ資源を将来にわたって守り、育てていくという義務があります。そのためには、漁業管理を行い、また漁場の環境保全・改善の役割も果たさなくてはなりません。
 

シジミ漁業の特性

シジミ漁業の特性
 
(1)他の漁業と比較したシジミ漁業の特性
 シジミ漁業は資源の減少と漁場環境の悪化が心配されるものの、河川・湖沼では多くの漁業者の生活を支えている貴重な産業です。シジミ漁業と他の漁業を比較した場合、以下のような特徴があげられます。

1.汽水湖の代表的漁業である。
2.操業が小型の舟で、1人でも可能である。
3.簡単な道具(ジョレンなど)で容易に漁獲できる。
4.設備投資が舟とジョレン位であり、必要経費もほとんど要らない。
5.操業時間が短い(宍道湖の場合:週休3日、1日3時間)。
6.漁獲対象が移動しないので、漁獲量が安定している。
7.漁場が生活の場に近い。
8.生産力が非常に大きい。
9.水無しで輸送が可能なため、輸送が容易である。
10.シジミの需要が大きい。
11.自然の恵みを最大に受ける産業である。
   
(2)シジミの環境浄化作用

 汽水域の様々な環境要因がヤマトシジミの生活に大きな影響を与え、資源の増減に関与していることはあきらかですが、汽水湖で圧倒的に優占し、巨大な生物量を誇るヤマトシジミが、湖中の窒素、リンなどの栄養塩の循環に大きな役割を果たし、漁獲されることによって湖沼の環境浄化に役立っていることは、あまり知られていません。私はこのことをいろいろの場で強調してきました。


1.物質循環に果たす大きな役割

 湖沼の富栄養化の原因は陸域から栄養塩の窒素、リンが流入して、植物プランクトンが異常に繁殖することに起因しています。ヤマトシジミは植物プランクトンを食べる懸濁物食者なので、湖中で大量に生息しているヤマトシジミは湖の物質循環に大きな役割を果たしていることが推測されます。

 宍道湖におけるこれまでの調査結果から得られた窒素循環は図8のとおりで、シジミが宍道湖の窒素循環に大きな影響を与えていることがわかりました(中村 1998)。


2.シジミのろ過作用

 餌の取り込みや呼吸のためにヤマトシジミの体内を流れる水の量はシジミ1g当り1時間で約0.2リットルなので、宍道湖全体では1日で約1,270億リットルの水がシジミの体内を通過することになります。これは宍道湖の全湖水を約3日間でろ過していることになります。このように大きなろ過作用を持つヤマトシジミは、宍道湖の水質浄化に想像以上の大きな役割を果たしていると思われます。


3.漁獲による窒素の回収

 ヤマトシジミを漁獲することは、シジミの体内に取り込まれた窒素を湖の外に出すことになります。大規模な設備と莫大な費用が必要な機械的浄化方法に比べると、シジミ漁業は非常に効率的な窒素・リンの回収方法といえます。

 宍道湖のシジミ漁業によって1年間に取り除かれる窒素の量は約73トンと見積もられており、湖の水質浄化、富栄養化防止に大いに役立っています。

 漁業が環境保全に大きな役割を果たしていることを認識し、漁業の振興となる環境保全対策を合わせて検討していくことも今後の課題と思われます。

 
 
図8 宍道湖における窒素循環に果たすヤマトシジミの役割(単位:トン/日)(中村 1998)
図8 宍道湖における窒素循環に果たすヤマトシジミの役割(単位:トン/日)(中村 1998)
 

シジミ漁業の現状

シジミ漁業の現状
 
(1)内水面漁業の中では第1位の漁獲量

 我が国の河川や湖沼には多くの魚種が生息しており、それぞれに重要な漁獲対象物ですが、それにもまして重要なのがヤマトシジミです。

 平成9年度の「漁業・養殖業生産統計年報」により河川・湖沼における魚種別漁獲量を見ると(図9)、内水面総漁獲量66,671トンのうち、第1位はシジミで21,822トン、全体の33%を占めています。

 
 
図9 内水面漁業における魚種別漁獲割合(平成13年度)
図9 内水面漁業における魚種別漁獲割合(平成13年度)
   
(2)国内におけるシジミの主産地

 シジミの産地は北海道から九州までの汽水湖と河口域です(図10)。シジミの主産地となっているのは宍道湖、小川原湖、十三湖、涸沼、網走湖、パンケ沼、利根川、木曽川、北上川などです。

 現在、シジミ漁業が消滅した湖には霞ヶ浦、北浦、河北潟などがあります。また、河口堰ができたため、シジミ漁業ができなくなった河川としては利根川、長良川、筑後川などがあります。

 シジミ漁業は汽水湖において非常に大きなウェイトを占め、シジミの漁獲量は全漁獲量の約80%を占めています(「漁業・養殖業生産統計年報」平成9年度)。

 
 
図10 「漁業・養殖業生産統計年報」(平成9年度)でシジミ類の漁獲量が記載されている河川・湖沼
図10 「漁業・養殖業生産統計年報」(平成9年度)でシジミ類の漁獲量が記載されている河川・湖沼
   
(3)漁獲量の推移とシジミ価格の変動

 農林漁業統計にシジミの漁獲量が記載され始めた昭和29年からのシジミ漁獲量と平均単価の経年変化を図11に示しました。昭和40〜50年頃は5万トン前後あった漁獲量も現在は2万トン弱まで減少してしまいました。 シジミ漁獲量は長期間にわたって減少傾向が続いています。このままではシジミ漁業は衰退してしまうのでないかと危惧されます。

 一方、漁獲量が年々減少してきたのに対して、シジミの価格は上昇し続けてきました。昭和40年には漁獲量が5.5万トンありましたが、価格はkg当り約10円でした。平成8年には漁獲量は2.6万トンと昭和40年当時の約50%に落ちましたが、価格のほうはkg当り400円と約40倍に高騰しています。

 
 
図11 シジミ漁獲量と平均単価の経年変化
図11 シジミ漁獲量と平均単価の経年変化
   
(4)外国からのシジミ輸入

 国内のシジミ資源の減少と価格の高騰のため、最近は価格の安い輸入シジミが多くなり、統計上でも51.6%も占めるようになってしまいました(図12)。このことは我が国のシジミ漁業に非常に大きな問題を引き起こしています。

 
 
図12 日本におけるシジミ漁獲量と輸入量の割合(平成13年度)
図12 日本におけるシジミ漁獲量と輸入量の割合(平成13年度)
   
(5)シジミの資源研究の遅れと技術的困難さ

 ヤマトシジミの調査研究は内水面の他の魚種であるアユ、ヤマメ、ウナギ、コイ、フナ、ワカサギ、シラウオなどに比べると大変に遅れています。本種の研究が遅れた原因の1つは、かつて資源量が非常に多かったため、種苗生産や増殖場造成などの水産研究の対象とすることが少なかったためと思われます。

 もう1つの大きな原因は、我が国では研究機関も行政も海面と内水面に分けられており、ヤマトシジミのように海面にも内水面にも属さない汽水域に生息している生物は両分野の研究から疎外されたことによるものと思われます。

 しかし、シジミの漁獲量が激減し、シジミ漁業の将来に黄信号が灯っている今、シジミ及びシジミ漁業に関する研究の必要性が強く求められています。

日本シジミ研究所

所長 中村 幹雄

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2.
環境の調査・研究及び受託業務
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