日本のシジミ漁業

 

「日本のシジミ漁業 その現状と問題点」 中村幹雄 編著

「日本のシジミ漁業 その現状と問題点」 中村幹雄 編著
 
日本のシジミ漁業 その現状と問題点
日本のシジミ漁業 その現状と問題点

 中村所長が全国の産地や関係者へ呼びかけて、1998年に島根県松江市で開催した第1回シジミシンポジウムで、はじめて日本のシジミ漁業者が一堂に会し、シジミ漁業の現状について熱い議論が交わされました。
本書はこの第1回シンポジウムでの貴重な論議をもとにして、日本ではじめてまとめられたシジミの生態と漁業の本です。内容は4章からなり、第1章でヤマトシジミの生態的特性、第2章で漁業の特性、第3章では13名の方たちによる産地報告があり、最後の第4章で問題点と対策についてまとめています。
日本のシジミ漁業の現状について理解できる国内唯一の書籍です。また、シジミを通して日本の自然をみることにもつながるでしょう。どうか是非ご一読を! 

<書評>

中尾 繁 北海道大学大学院水産科学研究科 教授 (日本水産学会誌 新刊書紹介)


 1998年11月に開催された第1回全国シジミ・シンポジウムを企画立案したのが島根県内水面水産試験場長の中村幹雄氏である。シンポジウムの主旨はヤマトシジミの研究と漁業の現状および相互の接点と問題点を提示することにあったと推察される。その成果を中心に同氏が編著者となってまとめた本書はヤマトシジミ漁業に関する初めての成書である。

 第1章「ヤマトシジミの生態的特性」は同氏の研究を基に、本種の生態学的知見と汽水域の環境特性に係わる本種の環境耐性、第2章「シジミ漁業の特性」は本種の環境浄化に果たす役割(第1章に含めた方がよかったかも知れない)に触れたあと、漁獲量から内水面漁業におけるシジミ漁業の重要な位置付けとその経年変化から近年の著しい減少傾向、が述べられている。
第3章「シジミ漁業の概要」は3/4にあたる199頁が割かれ、シンポジウムの発表内容が敷衍してまとめられている。北海道の天塩川・パンケ沼から九州・筑後川まで全国18のシジミ漁場を対象に、1)環境とシジミ漁業の概要、2)シジミ漁業の変遷、3)現状と問題点の3課題について編者を含めた15人の研究・行政の関係者が執筆している。各漁場の漁獲量の変遷を示すヒストグラムにはそれに直接・間接に影響があったと思われるイベントが付記されており、共通した3課題でまとめられた内容とともに漁場ごとの比較を容易にする工夫がなされている。
第4章「問題点と対策」では第3章の各地で直面する問題点を編者が4つにまとめ対策を提案している。シジミ資源とその漁業の管理対策、密漁問題は他の漁業とも共通するが次の2つの指摘は極めて重要である。陸域と接しもともとその影響を受け易い汽水域ではあるが、近年の陸域の開発が貧酸素水塊の形成や塩分変化に顕著に反映して本種の生息条件を厳しくしている。さらに、現在の販売量の半分近くを占める輸入シジミの、特に、畜養・放流による自然生態系や国産ヤマトシジミへの影響の恐れである。「シジミよおまえもか」と改めて驚く深刻な問題である。

 ヤマトシジミの研究と漁業を統一的に結合させたい希望と水産試験場という地域の基盤によって立つ使命感とがあいまってまとめられた本書には、編者の熱い情熱と思い入れが感じられ漁業と直結するフィールドサイエンティストの歩む姿を彷彿させる。啓蒙書としても広く読まれることを期待する所以である。

國井秀伸 島根大学汽水域研究センター 教授 (日本陸水学会誌 書評)

 食材になる汽水域の生物は何かと問われた時、シジミを思い浮かべる人は多いだろう。味噌汁の具として日本人が長年親しんできた自然の恵みであるヤマトシジミは、日本の汽水湖における総漁獲量の約8割を占めている。身近のこの有用二枚貝に関しては、これまでに多くの報告があり、最近では山室(1996)が生態や水質浄化に果たす役割についてよくまとめている。
しかしながら、日本各地でのシジミ漁業の実態については、体系的にまとめられたものはなかった。シジミは内水面漁業の中では第一位の漁獲量であるものの、漁獲量は昭和40年頃から長期間にわたって減少傾向が続き(特に河川での減少が著しい)、今や中国などからの輸入物が国産のシジミとほぼ同量(!)出回っているらしい。

 本書の編著者である中村幹雄氏は、シジミの漁獲量が国内でもっとも多い島根県の宍道湖を抱える内水面水産試験場で、シジミの生態と漁業についての調査研究を20年以上続けている。平成9年にはその成果を「宍道湖におけるヤマトシジミと環境との相互作用に関する生理生態学的研究」と題した博士論文にまとめ、母校である北海道大学から水産学の学位を得た。
シジミ博士とも称される氏は、場長としての地元での調査研究を行う一方、漁獲量が減少している我が国のシジミ漁業の現状と問題点を把握するため、仕事の合間にシジミの主産地に足を運び、全国各地の漁場が資源量の減少という共通の大きな問題に悩まされていることを知ったという。そしてシジミ漁業に携わっている人々みんなで考え、行動することの重要性を痛感し、シンポジウムを計画、平成10年に「第一回全国シジミ・シンポジウム」を主催している。
本書をまとめるきっかけとなったのは、シンポジウムの資料がほしいという問い合わせがその後多数あったことや、これまでにシジミに関する参考書なり教科書のようなものがないかと何度となく聞かれたことによる。

 本書は、
(1)ヤマトシジミの生態的特性
(2)シジミ漁業の特性
(3)シジミ漁業の概要
(4)問題点と対策
 という4章から成る。1章と2章では、シジミの生態的特性、生息環境、水産資源としての特性、漁業の現状などが簡潔に書かれている。本書の核となる第3章にはページ数の7割以上が割かれ、北は北海道の天塩川・パンケ沼から南は九州の筑後川まで、全国18ヵ所のシジミ産地の概要・変遷・問題点が、地元研究者の人々によって詳しく紹介されている。産地ごとに漁場図、漁法(ジョレンやフルイ、操業風景などの写真)、そして漁獲量の経年変化が社会的なイベントとともに図示されており、資料としての価値は高い。4章では環境改変による漁場環境の悪化(底層水の貧酸素化、塩分変化、底質の細粒化)や外国からの輸入シジミに関する問題点などが書かれ、特に自治体関係者や内水面の漁業関係者に是非一読してもらいたいと感じた。

 値段が少々高いのが気になるが、汽水域での漁業あるいはシジミの生態に興味を持つ人にとっては必携の書である。余談ではあるが、著者の細君は栄養士であり、シジミを使った料理の数々、味噌汁の具としてだけではない食の楽しみ方を披露していることを書き添えておく(中村ら, 1996)。

日本シジミ研究所

所長 中村 幹雄

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